家を出たあとに「鍵、閉めたかな」と不安になり、引き返して確認する。ガスの元栓を何度も見に行く。メールを送る前に宛先を繰り返し見直す──。
一度や二度なら、誰にでもあることです。しかし「確認したはずなのに、また不安になる」「確認に時間がかかって遅刻する」「家族に何度も『大丈夫だよね?』と聞いてしまう」という状態が続いているなら、それは強迫症(OCD/強迫性障害)の「確認強迫」かもしれません。
最初に、この記事でいちばんお伝えしたいことを書きます。
確認がやめられないのは、あなたの意志が弱いからでも、性格が神経質だからでもありません。「確認すると一時的に安心する」という体験そのものが、不安を強化してしまう仕組みがあるからです。 そして、この仕組みには有効な対処法があります。
確認行為とは
確認行為(確認強迫)とは、「〜してしまったかもしれない」という不安を打ち消すために、繰り返し行われる確認のことです。代表的なものには次のようなものがあります。
- 鍵・ガスの元栓・電気・水道・窓の戸締まりの確認
- 家電のスイッチやコンセントの確認
- メールやLINEの誤送信・失礼な文面がないかの見直し
- 「運転中に誰かをはねてしまったのでは」と道を戻って確かめる(加害恐怖に伴う確認)
- 「子どもが誤って小さいものを飲み込んでしまったかも」と、床や子どもの様子を何度も確かめる
- 「自分の考えが現実化して、他人を傷つけてしまうかもしれない」と不安になり、何事も起きていないかを確かめる
- 家族への「大丈夫だよね?」という保証の求め(巻き込み)
なぜ「確認するほど不安になる」のか
確認行為の中心には、次のような悪循環があります。
① 「鍵を閉め忘れたかもしれない」という考え(侵入思考)が浮かぶ
② 強い不安を感じる
③ 確認する
④ 一時的に安心する
⑤ しばらくすると「本当に大丈夫だったか?」と疑念がぶり返す
⑥ 前より少ない不安でも確認したくなる(不安の閾値が下がる)
ポイントは④です。確認によって不安が下がる体験は、脳にとって「確認は有効な手段だった」という学習になります。その結果、次に不安が浮かんだとき、脳はより強く確認を要求するようになります。確認は不安を解決しているのではなく、不安に餌を与えているのです。
さらに、心理学の研究では、同じ対象を繰り返し確認するほど、かえって「ちゃんと確認できた」という記憶の確信度が下がることが示されています。確認すればするほど記憶があいまいに感じられ、また確認したくなる──。「あんなに見たのに自信がない」という感覚には、理由があるのです。
「几帳面な性格」との違い
強迫症は、およそ50〜100人に1人が経験するといわれる、決してめずらしくない疾患です。「几帳面」「心配性」といった性格の延長ではなく、次のような状態であれば、症状として捉える方が適切です。
専門家が強迫症状の程度を評価する際には、Y-BOCS(エール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度)という国際的な尺度が広く用いられます。Y-BOCSでは、次の5つの観点から症状を捉えます。
- 時間──強迫観念や確認行為に、1日どのくらいの時間を取られているか(目安として1日1時間以上なら臨床的な水準です)
- 生活への支障──確認のせいで遅刻・疲労・睡眠不足など、仕事・学業・家庭生活に支障が出ているか
- 苦痛──浮かんでくる考えや確認せずにいられないことに、どのくらい強い苦痛を感じているか
- 抵抗──確認したい衝動に抵抗しようとしているか(「ばかばかしい」と分かっていて抵抗しようとするのに、やめられない、という状態はまさに症状の特徴です)
- コントロール──浮かんでくる考えや確認行為を、自分でどの程度コントロールできているか
「几帳面な性格」であれば、時間を取られすぎることも、強い苦痛や生活の支障もありません。逆に、時間・支障・苦痛のいずれかが積み重なっているなら、それは性格ではなく、対処できる症状として捉えてください。家族や同僚を確認に付き合わせている(保証を求める)場合も同様です。
自分でできる工夫
軽度であれば、次のような工夫で確認を減らしていける場合があります。共通する原則は、「確認を完全にゼロにする」のではなく、少しずつ減らして「不安なまま過ごしても大丈夫だった」という体験を積むことです。
1. 確認の回数とルールを決める
「鍵の確認は1回だけ。確認するときは『閉めた』と声に出す」のように、確認の上限をあらかじめ決めます。回数を数えることで、なんとなく繰り返すのを防ぎます。
2. 「不安なまま立ち去る」練習をする
確認したい衝動が湧いても、すぐには応じず、5分だけ待ってみる。不安は放っておくと、時間とともに自然に下がっていく性質があります。この「不安が勝手に下がる」体験こそが、悪循環を断つ最大の材料になります。
3. 家族に「大丈夫?」と聞くのをやめてみる
家族からの「大丈夫だよ」という保証も、確認行為と同じ働きをします。ご本人にとってもご家族にとってもつらい取り組みですが、保証の求めを減らすことは回復への重要な一歩です。
注意点が2つあります。1つめは、すべての確認を一気にやめようとすると、不安が急激に高まり挫折しやすくなること。「一番やめやすい確認から、少しずつ」が原則です。
2つめは、目に見える確認だけが確認ではない、ということです。頭のなかで「考えちゃダメだ」と思って考え自体を打ち消そうとしたり、「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせて安心させようとしたりすることも、不安に餌を与えることになってしまうので、注意が必要です。
専門的な治療──ERP(曝露反応妨害法)
強迫症の心理療法として最も効果が確立しているのが、認知行動療法の一種であるERP(曝露反応妨害法)です。
ERPでは、あえて不安が生じる状況に身を置き(曝露)、確認をしないで過ごす(反応妨害)練習を、カウンセラーと一緒に、段階的に行います。たとえば「鍵を1回だけ確認して外出し、戻らずに過ごす」という課題を、易しいものから順に取り組んでいきます。
一人では難しい「不安なまま待つ」プロセスを、計画的に、伴走者と共に進められるのが専門支援の意味です。
また、症状が強い場合には、医療機関でのお薬による治療(SSRIなど)とERPを組み合わせることで、より効果が高まることが知られています。
医療機関の受診をおすすめするケース
次のような場合は、カウンセリングよりも先に、精神科・心療内科の受診をご検討ください(病院とカウンセリングの使い分けはこちら)。
- 気分の落ち込みが強く、食事や睡眠が大きく乱れている
- 「消えてしまいたい」という気持ちがある
- 確認以外にも症状が広がり、外出や仕事がほとんどできない状態が続いている
当相談室は医療機関ではないため、診断やお薬の処方はできません。すでに通院中の方は、主治医の治療と並行してカウンセリングをご利用いただけます(通院中の方は、主治医にご相談のうえお申し込みください)。
まとめ
- 確認がやめられないのは、意志や性格の問題ではなく、「確認→一時的な安心」の悪循環によるもの
- 確認すればするほど、不安の閾値は下がり、記憶の確信度も下がる
- 抜け出す鍵は、「不安なまま過ごしても、不安は自然に下がる」という体験を積むこと
- 最も効果が確立した心理療法はERP(曝露反応妨害法)
参考文献
- Goodman, W. K., Price, L. H., Rasmussen, S. A., Mazure, C., Fleischmann, R. L., Hill, C. L., Heninger, G. R., & Charney, D. S. (1989). The Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale: I. Development, use, and reliability. Archives of General Psychiatry, 46, 1006–1011.
- van den Hout, M. A., & Kindt, M. (2003). Repeated checking causes memory distrust. Behaviour Research and Therapy, 41(3), 301–316.
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おたるOCD・不安サポートオフィスは、強迫症(OCD)を専門とするオンラインカウンセリングです。公認心理師が、ERPを中心とした認知行動療法で回復までを伴走します。
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本記事は情報提供を目的としたものであり、診断に代わるものではありません。執筆・監修:公認心理師 髙橋翔太
