強迫症(OCD)について調べていると、必ず出てくるのがERP(曝露反応妨害法:Exposure and Response Prevention)という言葉です。強迫症に対して最も効果が確立している心理療法で、国内外の治療ガイドラインでも第一に推奨されています。
一方で、「不安なことをあえてやる治療」と聞いて、次のような不安を持つ方も多いのではないでしょうか。
「怖いことを無理やりやらされるのでは?」
「荒療治みたいで、悪化しそう」
「自分にできる気がしない」
最初に、この記事でいちばんお伝えしたいことを書きます。
ERPは、本人の同意なく怖いことをやらせる治療ではありません。ご本人と相談して作った「不安の階段」をもとに、「ちょっと不安だけど頑張れそう」という段階から、ご本人のペースを尊重しながら、計画的かつ段階的に練習していきます。 どの課題に取り組むかを最終的に決めるのは、いつもご本人です。
ERPの仕組み──なぜ「あえて不安になる」のか
強迫症の中心には、次の悪循環があります。
① 「汚染されたかも」「戸締まりを忘れたかも」という考え(強迫観念)が浮かぶ
② 強い不安を感じる
③ 手洗い・確認などの強迫行為で不安を打ち消す
④ 一時的に楽になるが、「強迫行為をしないと不安は下がらない」という学習が強まる
⑤ 不安はより頻繁に、強迫行為はより長くなっていく
この悪循環の弱点は、実は④にあります。不安は、強迫行為をしなくても、時間とともに自然に下がっていく性質を持っているのです。しかし強迫行為で毎回すぐに打ち消してしまうため、ご本人は「不安が勝手に下がる」体験をする機会を失っています。
ERPは、この失われた体験を計画的に取り戻す治療です。
- 曝露(Exposure):不安が生じる状況に、あえて段階的に触れる
- 反応妨害(Response Prevention):強迫行為をしないで(または減らして)過ごす
「不安になっても、強迫行為をしなくても、大丈夫だった」という体験を積み重ねることで、脳の学習を上書きしていきます。
実際のセッションの進み方
当相談室で行うERPを例に、標準的な流れをご紹介します。
ステップ1:症状の整理と心理教育(初回〜数回)
まず、どんな場面でどんな考えが浮かび、どんな強迫行為をしているかを一緒に整理します。あわせて、上で説明したような「不安の仕組み」を丁寧に共有します。仕組みの理解は、それ自体が治療の土台になります。
ステップ2:「不安の階段」を一緒に作る
不安が生じる場面を書き出し、それぞれの不安の強さを0〜100点で採点して、easyからhardへ並べます(不安階層表)。たとえば汚染恐怖の方なら──
- 自宅のドアノブに触れて、5分手を洗わない(30点)
- 共用のエレベーターのボタンを押して、手を洗わずに帰宅する(55点)
- 公共のトイレのドアに触れて、そのままスマホを操作する(80点)
というように、ご本人にとっての難易度で階段を作ります。同じ症状でも階段の中身は一人ひとり全く違うため、ここは時間をかける価値のある工程です。
ステップ3:易しい段から練習する
30〜40点程度の課題から始めます。セッション中に一緒に取り組むこともあれば、日常生活の中での宿題として設定することもあります。大切なのは、課題の最中に不安を打ち消す工夫(こっそり数を数える、後で洗おうと決めておく等)をしないこと。不安を感じたまま、不安が自然に下がるのを待ちます。
ステップ4:振り返りと階段の更新
「予想した不安は100点だったが、実際は60点で、20分で下がった」──こうした発見を毎回振り返り、記録します。「実際に想定していた不安度よりも高かったが、乗り越えられたことで大きな自信になった」という振り返りが生まれることもあります。easyな段が退屈になってきたら、次の段へ。この繰り返しで、数ヶ月かけて階段を登っていきます。
ゲームにたとえるなら、ラスボスが不安度100だとしたら、まずエリアボス(不安度50)、次に中ボス(不安度70)というように、少しずつボスを倒してレベルアップをしていくイメージです。段階的にクリアし、ラスボス戦に向けて自信を高めていきましょう。
よくある質問
Q. 途中で不安に耐えられなくなったら?
課題の難易度を下げます。ERPは我慢比べではなく、「達成できる難易度で成功体験を積む」ことが目的です。脱落しそうな課題を続けるより、確実に登れる段に調整する方が、結果的に早く進みます。
Q. 悪化することはありませんか?
練習中に一時的に不安が高まることはありますが、それは治療が想定している正常な反応です。計画外の無茶な曝露を自己流で行うことのほうがリスクが高いため、専門家と計画的に進めることをおすすめします。
Q. オンライン(Zoom)でもできますか?
できます。ERPの課題の多くは「ご自宅や生活の中の場面」で行うため、自宅から参加できるオンラインは、むしろ実際の生活場面に近い形で練習できるという利点があります。
Q. 薬は必要ですか?
症状が強い場合、医療機関でのお薬(SSRIなど)とERPの併用が効果的なことが知られています。当相談室は医療機関ではないため処方はできませんが、通院中の方は主治医の治療と並行してご利用いただけます。
ERPの効果の裏づけ(エビデンス)
ERPの効果は、国内外の研究と公的な指針によって裏づけられています。
- 2025年に日本不安症学会・日本神経精神薬理学会が公表した国内初の「強迫症の診療ガイドライン」において、曝露反応妨害法を基礎とする行動療法を含む認知行動療法が、強迫症への治療として推奨されています
- 厚生労働省が公開している「強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル」では、ERPを中心とした治療が、治療を行わない場合や薬物療法のみの場合よりも高い改善率を示すことが、海外の多数の無作為化比較試験(RCT)に加え、日本国内のRCTでも実証されていると記載されています
「効果が科学的に確認された心理療法」であることが、ERPが世界的に第一選択とされている理由です。
まとめ
- ERPは強迫症に最も効果が確立した心理療法で、ガイドラインでも第一に推奨されている
- 「不安は強迫行為をしなくても自然に下がる」ことを、計画的な練習で体験し直す治療
- 課題はご本人と作る「不安の階段」を、易しい段から本人のペースで登る
- オンラインでも実施でき、生活場面に近い形で練習できる利点がある
参考文献
- 日本不安症学会・日本神経精神薬理学会(2025).『強迫症の診療ガイドライン(第1版)』. 不安症研究, 17(1), 22–187.
- 中谷江利子・加藤奈子・中川彰子.『強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)』. 厚生労働省科学研究費補助金障害者対策総合研究事業. 不安症研究 特別号, 2016.
ERPによるカウンセリングをご検討中の方へ
おたるOCD・不安サポートオフィスは、強迫症(OCD)を専門とし、ERPを中心とした認知行動療法を提供するオンラインカウンセリングです。
- 初回相談(30分)1,500円──症状を伺い、ERPの進め方を具体的にご提案します
- 平日20時〜/土日祝18時〜の夜間対応。お仕事を続けながら取り組めます
- Zoomで全国どこからでも。ニックネームでのご利用も可能です
本記事は情報提供を目的としたものであり、診断に代わるものではありません。執筆・監修:公認心理師 髙橋翔太
